前回は『日常』について語ったが、今回は『WORKING!!』について話そうと思う。
このブログは雑文であって、自分の思い出と絡めて語る形式であることを一応言っておきたい。
『WORKING!!』というと、私は2011年オタク(この名称に代わるものがないのか検討してみてほしい。まどマギ世代という表現もあるが、個人的にはまどマギよりシュタゲに感動を覚えた記憶がある。いずれにせよこの年はなぜか象徴的なのである)なので2期(2011)から入った口である。2期を見終わって1期を見た記憶があるが、これは『イカ娘』(2011)も同じ順序であった。
『WORKING!!』2期の後に同じ作者の『サーバント×サービス』(2013)がアニメ化され、その後に3期(2015)が放送された。どれも制作はA-1Picturesで、原作の絵が『みなみけ』のようなのに、特徴を残しながらも可愛く仕上げているのが流石というべきだろうか。
『サーバント×サービス』は公務員という職業を描く点で、有川浩『県庁おもてなし課』や辻村深月『ハケンアニメ!』を連想するが、女性が公務員もののラブコメを描きがちなのには理由があるのだろうか。いずれにせよこの作品は鳴かず飛ばずで終わってしまったのだが、私見では主人公が地味過ぎたのが原因ではないかと思っている。『WORKING!!』に比べるとキャラが薄いか二番煎じに映ったのか本当のところはわからないが、男性が見ても萌えられるキャラがいないとヒットしないのは間違いないだろう。ちなみにOPの作曲家・田中秀和は強制わいせつで有罪になった。ハナヤマタのOPといい、神前暁の弟子として優れたアニソンを作っていただけに衝撃は大きかった。これはちなみにである。
『WORKING!!』は2期までしか見ておらず、というのも2015年にはアニメから離れてしまっていたからで、この間ようやく3期を見たのだった。
山田が一番可愛いということしか覚えていなかったが、3期はなんと山田の物語が入っている。そしてそれがこの作品に似合わず感動的なのである。
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そもそも山田は家出少女であり、ファミレスの屋根裏に住むヤバい子であり、山田も偽名というヤバい子なのだが3期ではその家出の謎が明かされる。山田の家出は無口で恐い母親から勉強をしろと圧力をかけられ逃避した結果なのだった。このエピソードは子供の読者・視聴者には共感しやすいのではないか。ファミレスという学生・生徒たちの入りやすいバイト先を舞台とし、そこでの恋愛は自分にも起こりうるかもしれないと淡い夢を見させてくれるのが本作の魅力でもあるのだから。
山田は今だとトー横キッズのような不良少女としてデザインされると思うが、この当時は健全が主流だったので山田も親の問題を抱えながら却って明るく振舞う健気な少女である。山田の機能は主人公たち高校生組よりも下の子供たちの共感先であると同時に、高校生組が一向に受験に触れないので彼女が学業競争を生きる子供たち(高校生を含む)の意識を反映している側面もある。
佐藤と八千代の恋愛は大学生かそれ以上の年齢層に受けるようになっているし、この作品が年齢的にも包括的な、まさにファミレス的な大衆性、総合性を有していることがわかる。このハイブリッド感は公務員では出せないだろう。『コンビニ人間』と同じくファミレスというのはあらゆる人々の共感を呼べるし、コンビニよりも家的な暖かい雰囲気も醸し出せる最適な舞台設定だった。学園ラブコメにおける部活動と同じで、それは共同体の理想なのだろう。というより共同体を切実に求める運動の帰結なのだ。
男性作者は既存の記号で遊びがちだが、女性作者は私がその文脈を知らないだけかもしれないが、現実の環境を反映するのが巧みな印象がある。『先輩はおとこのこ』や『スキップとローファー』、『その着せ替え人形は恋をする』『僕の心のヤバいやつ』など、現代の環境を意識しつつ等身大の人間やその心情を描くのが上手い作品が多い。『WORKING!!』も主人公は幼女を可愛いと思うオタクでその性癖を自分で咀嚼できずにいるが、そんな悩みを男性オタクが自分で思考し告白したことがあっただろうか。『先輩はおとこのこ』の主人公は女装癖があり可愛いものが好きだが、これは『WORKING!!』の主人公も同じである。女性向け作品にこのタイプの男性キャラがいて、一種の記号なのだと指摘できるかもしれないが、その葛藤も含めて記号だとしてもそれを男性オタクが我がごととして吸収し、描写したことがあっただろうか。そうした点で本作は、キャラ=記号の交錯であると同時にそれぞれが自分とは何かを考える現実的主体の物語でもある。
もちろん登場人物に変人が多く、各々葛藤と向き合っていくという作りはエロゲ的でもあり、男性オタク作品の文脈と絶縁しているわけではない。だからこそ本作は男性オタクにも支持されたのである。主人公を男性にしているのもエロゲと少女漫画(か?)の接続の意図を感じる(というより掲載誌が青年誌なのでそうせざるを得なかったのだろう。男性向けに擬態したのだ)。ついでに言うと『マケイン』はこの三人称ラブコメをラノベに輸入してやっている(マケインもアニメ化はA-1である)。『WORKING!!』の優れていた点は男女どちらが見ても萌え/キュンできるバリアフリー性だが、一対一ラブコメはカップリングが単一で一人称的ではあるもののその点は同じであり先駆的だったように思われる。
エロゲを含め、オタクにとっての恋愛とは自分の欲望に気づいたり自分の限界に気づいたり自我の芽生えと成長の表現であって、父性との向き合いなのだと思う。それを繊細に描ける筆力が求められるわけである。とはいえそんな文芸性は一対一ラブコメには基本見られないし、百合作品に拠点を移した観があるが。Image may be NSFW.
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散らかった文章になったが、気になる部分も本作にはある。
男性側は基本的に有能な人間が多く、王子様的表現が見られる。山田の兄だけは遊び人だが、彼は母のことをどう思っているか曖昧だし、いまいち人柄がわからない。唯一の非-王子様キャラがキャラ立ちしていないので、全体的に見るとそうした偏りが指摘されうる。また、佐藤がいきなり八千代を抱擁する場面もちょっとヒヤッとしてしまう。『山田くんとlv999の恋をする』でも、いきなり山田が「自分の恋心、バレちゃったか(てへぺろ)」とイケメン仕草をして驚いたことがあったが、それは多分にフィクショナル・記号的である。それで女性読者がキュンとできてしまうので別にいいといえばいいのだが、その人物の起こしそうな行動から逸脱しているように見えて気になるのだ。予想の裏切りが定型に陥るのは残念ではないか。
くどくど述べたが、『WORKING!!』はラブコメアニメ界の金字塔であることは誰もが認めるだろう。3クールもあるが、胸キュン必至、アニメの教養としてもそうだがおすすめ作品である。